有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
2021年6月9日に改正育児・介護休業法が公布されました。この改正法は、出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設、育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び労働者に対する個別の周・意向確認の措置の義務付け、育児休業給付に関する所要の規定の整備等の措置を講じることを趣旨として、育児・介護休業法、雇用保険法等が一括して改正されたものです。今日から、数回に分けて改正点のポイントを確認しておきます。
現状、法令で育児休業について、有期雇用労働者は、「引き続き雇用された期間が1年以上であること」、「子どもが1歳6ヶ月に達するまでの間に契約が満了することが明らかでないこと」という2つ要件を満たしたときに取得できます。今回の改正で1つ目の要件が削除され、2つ目の要件のみとなりました。
有期雇用労働者に対する取得要件の緩和になりますが、別途労使協定を締結することで、以下の労働者について取得の対象外とすることができるため、労使協定を締結している時には、実質的な取扱いは変わらないことになりそうです。
・雇用された期間が1年未満の労働者
・1年(1歳以降の休業の場合は、6ヶ月)以内に雇用関係が終了する労働者
・週の所定労働日数が2日以下の労働者
なお、介護休業についても同様の改正が行われており、2022年4月1日に施行されます。
法令通りの規程をしている場合には、就業規則(育児・介護休業規程等)の変更が必要になる改正です。今後、改正内容を確認することが必要です。
育休取得のための雇用環境整備・取得の意向確認
改正育児・介護休業法の連載第2回目は、育児休業を取得しやすい雇用環境整備と、妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付けについて取り上げます。
育児休業や介護休業は取得ができるように法整備がされているものの、取得する上司の制度への理解が浅かったり、復帰後の昇進に影響するのではないかという懸念から取得が進まなかったりする状況がありました。そこで、法改正により環境整備と個別周知・意向確認が措置義務となりました。具体的には、以下の対応が求められます。
@環境整備
新制度となる出生時育児休業や現行の育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の措置として以下を義務付ける。
・育児休業に係る研修を実施すること
・育児休業に関する相談体制の整備として相談窓口設置を設置すること
※これらも含め、複数の選択肢からいずれかを選択することとなる。
A個別周知・意向確認
妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置として、労働者または配偶者が妊娠または出産した旨等の申し出をしたときに、申し出をした労働者に対し出生時育児休業および現行の育児休業制度等を周知するとともに、これらの制度の取得意向を確認するための措置を行うことを義務付ける。
※周知の方法は、面談での制度説明、書面等による制度の情報提供等の複数の選択肢から選択することになる予定。
個別周知・意向確認では、労働者からの申し出をしたときということになっており、労働者からいかにスムースに申し出を行ってもらうかということも課題の一つになるかと思います。育児休業の取得を早めに申し出てもらえるような仕組みづくりが今後、さらに一層重要になってくるのでしょう。なお、この改正は2022年4月1日に施行されます。
育児休業の分割取得と育休延長時の夫婦交代での取得
改正育児・介護休業法の連載第3回目は、育児休業の分割取得等について取り上げます。
現在の育児休業の取得は原則として1回のみとなっており、一部、有期契約の従業員が契約更新するや、子どもの出生後8週間以内に父親が取得することを想定した、いわゆる「パパ休暇」については、再度取得できる仕組みがあります。なお、保育所に入所できない等の理由により、子どもが1歳から1歳6ヶ月になるまでの休業(延長の育休)、1歳6ヶ月から2歳になるまでの休業(再延長の育休)に関しては、この1回の取得とは別で考えることになり、各期間の初日が育児休業の開始日になっています。これに関連して以下の改正が行われました。
・1歳までの育児休業について、分割して2回まで取得することができる
・延長の育休、再延長の育休に関し、育児休業の開始日を柔軟にすることで各期間の途中でも取得できるものとして、夫婦交代で取得できる
・延長の育休、再延長の育休に関し、特別の事情がある場合には、再度育休が取得できる
これらの改正により、かなり柔軟に育休が取得できる一方、会社としては育休の申し出に関し、回数の管理や期間の管理、それに付随する社会保険関連の手続きが必要になります。また、就業規則(育児・介護休業規程等)の変更も広範にわたりそうです。
施行期日は、公布日(2021年6月9日)から1年6ヶ月を超えない範囲内で政令で定める日となっていますが、早めに改正点を押さえて、管理方法を検討しておきましょう。
男性の育児休業取得促進として設けられた出生時育児休業
改正育児・介護休業法の連載第4回目は、出生時育児休業について取り上げます。
今回の育児・介護休業法の改正では、男性の育児休業の取得促進が大きな目玉ですが、そのために設けられたものが出生時育児休業です。出生時育児休業は、子どもが出生後8週間以内に4週間まで取得できる育児休業ですが、以下の通り柔軟な取得ができるものになっています。
・申出期限
原則休業の2週間前まで(通常の育児休業は1ヶ月前まで)
・分割取得
2回に分割して取得できる(現状、パパ休暇以外は分割取得不可)
・休業中の就業
労使協定を締結している場合に限り、従業員と会社が合意した範囲内で休業中に就業することができる(就業できる時間等の上限は設けられる予定)
なお、この改正に伴い、現状のパパ休暇の規定は削除されました。また、この出生時育児休業に合わせて、雇用保険に出生時育児休業給付金が設けられます。「休業」であるにも関わらず、就業ができるとことはとても大きな取り扱いの変更になります。施行は公布日(2021年6月9日)から1年6ヶ月を超えない範囲内で政令で定める日となっており、就業できる上限等は今後、厚生労働省令で設けられる予定です。
育児休業の取得の状況の公表の義務付け
改正育児・介護休業法の連載最終回は、育児休業の取得の状況の公表について取り上げます。
就職・転職で会社を選ぶ際には、通常、職種等のほかに労働条件を確認します。近年、若い世代を中心に賃金額ではなく、休日日数を重視する傾向があるといわれており、また、育児休業の取得実績等に関心を持つ求職者も増えているようです。
今回の改正育児・介護休業法では、男性の育児休業の取得を促進するため、従業員数が1,000名を超える企業は育児休業の取得の状況を公表することについて、義務として盛り込まれました。
公表方法や公表内容は、厚生労働省令で決められることになっていますが、男性の育児休業等取得率または育児休業等及び育児目的休暇の取得率について公表が求められるようです。
この育児休業の取得の状況の公表が、働きやすさの指標として求職者の企業選びの判断基準の一つとなるかもしれません。今回の改正内容を踏まえ、環境整備や個別周知等に力を入れ、女性も男性も子育てと仕事の両立を図れるような企業づくりをしていくことが重要になるのでしょう。
参考リンク
厚生労働省「育児・介護休業法について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html